派遣社員から正社員になることはできるのか?【医療事務の派遣事情】

派遣社員から正社員 医療事務

病院での受付や会計窓口の医療事務職員を、「派遣社員」に担当してもらう病院が増えてきています。

派遣社員を雇用する病院としては、安い人件費で窓口業務などを担当してもらえるので重宝する反面、その派遣社員自身は正社員ではないため、給料や福利厚生が良くありません。

そのため「正社員」を目指すことがベターでしょう(もちろん個々人の事情によりますが)。

しかし、実際のところ派遣社員から正社員になることは可能なのでしょうか?

結論から言うと、医療事務において派遣社員から正社員になることは大変にハードルが高いと考えます。

なぜ派遣社員から正社員になることは難しいと言えるのか、その根拠を一つずつ説明していき、派遣社員から正社員になるための対策などをお伝えしていきますので、ぜひ最後までお読みください。

1.派遣社員の概要

はじめに医療事務における派遣社員の概要について説明していきます。医療事務とはいえ、一般的な派遣の形態と大差ありません。

また医療事務の派遣会社はいくつかありますが、どの会社がどうというのではなく「全体的な医療事務の派遣会社の傾向」として捉えておいてください。

1-1.病院との関係

病院と派遣会社は、図のように病院が派遣会社に業務を一部委託し、派遣会社はその業務を遂行する人材を派遣するという関係性です。
正社員と派遣

  1. 病院が行うべきたくさんの業務の中から、受付・会計など窓口業務や診療報酬請求(レセプト)業務などの一部の業務を外部の業者(人材派遣会社)に委託しようとしてホームページなどで募集をかけます。
  2. 条件のあった派遣会社と病院が契約をし、業務委託が開始されます。
  3. 受付・会計などのポジションに派遣会社から派遣された職員が配置され、その病院の現場責任者(医事課長など)から指示を受けながら業務を行います。
  4. 給料は病院からではなく派遣会社から支払われます。
  5. 派遣社員は派遣会社の契約社員やパートであるケースが大半を占めます。

1-2.派遣会社の中間マージン

派遣 中間マージン

派遣社員は図のように、派遣先の病院から直接給料が支払われるのでなく、所属する派遣会社から(派遣会社を経由して)給料が支払われます。

その給料の一部が中間マージンとして派遣会社に入り、残りが派遣社員の方の給料として支払われます。

給料の額はほんの一例ですが、派遣会社の中間マージンは大体30%前後です。
(170,000円の30%は51,000円です。)

派遣社員の方はただでさえ正社員より給料が少ないのに、このような雇用形態(雇用契約)のため、さらに正社員より給料や福利厚生が低くなってしまうのです。

 

2.正社員が難しい理由

ここまでは派遣社員の概要について書いてきましたが、ここからが本記事の本題です。

なぜ、派遣社員からだと正社員になるのが難しいのでしょうか?その理由を列挙していきます。

2-1.病院側は派遣にシフトしている

第一に世の中の流れとして、医療事務のポジションをどんどんと正社員から派遣社員へ変えていく病院が増えており、正社員としての求人が減っているということがあります。

そもそもの求人の絶対数が減っているということですね。

正社員を雇用するより、派遣社員に委託する方が人件費を抑えることができるため、多くの病院が派遣社員を積極的に登用してきています。

これは特に病院の規模が大きくなればなるほどその傾向が顕著です。

これらの理由から、医療事務員の正社員としての求人募集自体が減っていることが、正社員となる障壁となっています。

2-2.派遣社員の業務の幅がせまい

派遣社員に委託する業務は総合受付・医療費計算・会計(金銭授受)・診察室の受付などの窓口業務に限られていることがほとんどです。

私の勤務先の病院にいる派遣社員の皆さんも、本当に丁寧に患者さんと接する方々ばかりで、一生懸命業務にあたっていらっしゃることは誰もが認めることなのですが、業務範囲が限られているため、病院の全体まで視野を広げる必要がないのです。

病院から委託された業務だけに注力していては、正社員として欲しい人材に成長しない。つまりは

派遣社員としての経験が正社員としての就職に評価されない」のです。

医療事務の派遣社員として働き、晴れて(コネで)正社員となることができた友人が、

派遣社員と正社員を比較して、業務内容の違いや責任の重さを痛感した」と話してくれました。

それほどまでに派遣社員と正社員の業務内容には乖離があるのです。

 

3.正社員を目指し派遣で大手に潜り込む?

大手の病院など、居心地がよくて職員がなかなか辞めない職場であれば、正社員での求人がほとんど出ません。

それでも、正社員の欠員がでれば補充することはあるでしょう。そんなチャンスに備えて

行きたい病院に派遣社員として潜り込んでおき、活躍ぶりを見せて正社員を狙う

という作戦もありますが、これは思っているほど簡単にはいかないと考えます。

3-1.ヘッドハンティングは難しい

病院側が欠員補充として、働きぶりのよい派遣社員に目を付けたとしたらどうでしょうか?

病院側が優秀な人材だと判断するということは、もちろんその派遣会社にとっても優秀な人材であり、そうそう手放したくはありません。

そんな人材を病院側がリスクや手間をかけてまで派遣会社と交渉することは考えにくいでしょう。

その病院に複数人いる派遣社員の中からその人をヘッドハンティング(一本釣り)して正社員にするということは、派遣会社に対して綿密な交渉が必要になりますし、他の派遣社員の人たちの目も大いに気にしないといけません。

「やったねヘッドハンティングだよ!すごいね行ってきなよ!」

と派遣会社の他の職員が送り出してくれるでしょうか?

仮に気持ちよく送り出してくれたとしても、その後も同じ空間で働き続けるのですから、いろいろややこしいですね。特段の気を使いますし、カドが立つ可能性もあります。

3-2.自分から受験するには周囲との軋轢が

前項はヘッドハンティングを想定したケースでしたが、では派遣先の病院が公募した正社員の求人募集に対し、そこで働く派遣社員の人が応募した場合はどうなるでしょう?

合格した場合、派遣会社を退職してその病院に転職するのですから、気まずさは想像に難くないですね。

もしかしたら正社員として、かつての上司に指示をしないといけないことも出てくるかもしれません。

退職後に元の職場の人たちと身分を違えて一緒に働くことはなかなかに難しいことです。

 

4.派遣会社自体の正社員を目指す?

病院ではなく、その派遣会社の正社員になるというパターンもあるようですが、なかなか狭き門であったり、それほどメリットがなかったりと厳しい現実があります。

派遣会社の正社員の一例ですが、

  • 結局給料は安い
  • ボーナスも雀の涙ほどである
  • 全国的な転勤の可能性がある
  • 診療情報管理士の資格が必須である

このような待遇とのことです。

正社員でも給料が高くなかったり、全国の病院へ派遣させられる可能性があったり、そもそも正社員になるには「診療情報管理士」が必要であったりと、そのハードルは高く、メリットが少ないです。

契約社員の頃とほとんど変わらないどころか、悪い条件になってしまうのであればその派遣会社で正社員を目指す理由はありませんね。

 

5.派遣社員が正社員として就職するために

5-1.なぜ最初に派遣になったか明確な理由が欲しい

面接官からすれば、「なぜ派遣に甘んじたのか?」と勘ぐってしまいます。

そう、派遣社員になることは「甘んじた結果」と捉えられても仕方ありません。

  • A病院に命を救ってもらった
  • A病院に恩返しがしたかった
  • A病院は正社員の枠がなかった
  • どうしてもA病院で働きたかった

派遣社員を選んだからにはこれくらいの理由が欲しいところです。

5-2.幅広い視野を持ち業務遂行していることをアピール

派遣社員ではどうしても業務範囲が限られてしまいますが、それでも

自分はこれだけの努力をしているんだ!

という姿勢や強みをアピールできることが重要です。

  • 派遣社員という立場を重々踏まえつつも、その病院がより良くなるようにはどうすればいいか常にアンテナを張って考えていた
  • 時には派遣会社の責任者を説得し、病院側の課長や部長などの責任者に改善点を上申してた
  • 業務の一つ一つに創意工夫を凝らした結果、職員全体の残業時間を減らすことができた

などなど、与えられた業務だけをやっていたわけでなく、自ら考えて行動した経験や成果などを伝えることができると良いです。

5-3.いきなり大手を目指さずステップアップを考える

派遣社員を雇っているような大手の病院は人気があるため、その分倍率が高く、就職活動は困難を極めます。

選考基準は病院によってまちまちでしょうが、もしかしたら「派遣社員」ということだけで不利に働いたり、書類選考で落ちる可能性もあります。

そうして何度も大手の就職に時間を浪費していてはいけませんので、いきなり大手を目指すのではなく、比較的倍率が少なく、採用されやすい病院で正社員としての経験を積むということも手です。

正社員として勤続を重ね、役職なども付けばより転職しやすくなるでしょう。

現代は一つの職場にこだわる文化ではなくなってきました。

ご自身のキャリアアップを目指して、転職前提で正社員として勤めることができ、かつご自身のやりたい業務ができるような就職しやすい病院をまずは狙ってみましょう。

 

6.派遣社員で働くことが悪いことではない

ここまで派遣社員について少し否定的に書いてきましたが、何も派遣社員で働くことの全てが悪いことではありません。

主婦や子育て世代、子育て卒業世代の女性であれば、「自宅から最も近い病院でパートタイムで働く」などご自身の希望や都合と合致した条件ならば、無理に正社員になる必要はありません。

医療事務という専門性も活かせますし、何より病院はたくさん存在します。

ただ、これは筆者の私見ですが、高卒や専門学校卒の若い人が新卒で派遣社員に甘んじるのだけは避けるべきです。

新卒のスタートで派遣社員ならば、なかなかのマイナスからのスタートとなり、人生ハードモード突入です。

給料も安く他業種の同級生と大きな差がついてしまい、大変に悔しい思いをしてしまいます。

前項のように、どこの病院やクリニックでもいいので、「正社員」で就職することを貪欲に考えてください。

正社員で就職できるよう、早い段階から就職活動を視野に入れ、情報収集や学業に励むようにしましょう。

 

7.本記事のまとめ

  • 派遣社員から正社員になることはなかなか難しい
  • 派遣社員の経験が正社員としての評価に結び付かない
  • 常に考え行動しながら業務を遂行する姿勢と実績が欲しい
  • 派遣先の病院の正社員になることもなかなか困難を極める
  • ヘッドハンティングか自由応募にせよリスクや気遣いが大きい
  • 働き方は人それぞれで派遣がその人にマッチしているなら良い
  • 大手の正社員は厳しいため簡単に正社員になれるところを狙おう
  • 高卒や専門卒など若い人はできるだけ派遣ではなく正社員を目指そう

 

8.おわりに

以上、医療事務における派遣社員の実情や正社員への道のりの厳しさについて書いてきました。

現実問題、医療事務において派遣社員から正社員になることは容易ではありません。

診療情報管理士や医師事務作業補助者の資格を取得したり、与えられた業務を常に最善・改善を熟考しながら取り組むなどしたりしてステップアップし、ご自身の市場価値を上げていきましょう。

下のリンクにある「はたらいく」では医療事務の正社員での転職もサポートしていますので、ぜひご活用ください。

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