救急隊に嫌われる病院とは?【多くの患者を搬送してもらうために】

救急隊に嫌われる病院 医療現場

救急医療を担う病院(救急告示病院)としては、救急隊にたくさんの患者さんを搬送してきてもらいたいと考えています。

ただ単に「救急告示病院」を掲げているだけで患者さんが来てくれればいいのですが、そうは問屋が卸しません。

その地域に救急病院が複数あるのならば、患者さんを取り合うことになります。

この記事では、年間6,000件以上もの救急患者を受け入れる病院に所属していた筆者が、直に救急隊から救急患者を受け入れる電話をとっていた経験や友人の救急隊員の話などから救急隊が嫌う病院をご紹介します。

病院関係者の方は特にこの記事を最後までお読みいただき、ご自身の病院のご参考にしてくださいましたなら幸いです。

もちろん一般市民の方も、救急医療の現場を知っていただく良い機会ですのでぜひともお読みください。

1.救急患者受け入れの概要

はじめに救急搬送の流れについておさらいします。

ご存じの方もそうでない方もいらっしゃるでしょうから、ここで今一度、119番の通報から病院に搬送されるまでの流れをみていきましょう。
119番 流れ

  1. 症状がでる
  2. 救急車を呼ぶ
  3. 救急車が到着し車内に収容される
  4. 救急車内で患者を診療できる病院を電話で当たっていく
  5. 電話を受けた病院が診療可能なら受け入れる
  6. 救急車が病院に到着し診療が開始される

このように、まず患者に症状が発生すると119番で救急車を呼びます。

患者の元に到着した救急隊は患者を救急車の中に収容してから、患者を受け入れてくれる病院を探します。

救急隊から病院へ電話をかけ、病院が患者を診療できる状況であれば、受け入れ可能となり、救急隊が患者を病院まで搬送します。

救急隊が病院に到着したら、病院側に患者を引き渡して終了です。

そこから病院は患者の診療を開始するのです。

以上を踏まえて、どのような病院が救急隊に嫌われるかを説明していきます。

 

2.患者を選んでいないか

119番通報をする患者さんの症状は様々であり、かつ救急搬送時の事情も全く異なります。

より多くの患者さんの搬送を受け入れできるよう、選り好みしないことが求められます。

患者さんを受け入れる基準が日によって差が生じブレてしまうのはよくありません。

2-1.症状による受け入れ基準のブレ

病院側は救急担当の医師を交代で配置していますが、医師にはそれぞれ専門の診療科があり、医師によって診療できる範囲が大きく異なります。
医師 交代制

たとえば図のように、内科医が担当の日もあれば、外科医が担当の日もあります。

月曜日なら様々な内科症状の患者さんを受け入れることができますし、火曜日ならどの曜日より多くの外科症状の患者さんを受け入れることができます。

このように、担当医の専門科によって受け入れできる患者さんの症状が異なるのは普通ですが、一般的に内科・外科・整形外科症状の応急処置程度の対応であれば、どの診療科の医師でもできるようです。

内科・外科・整形外科の症状による救急搬送であるにも関わらず、「専門外だ」と言って患者さんの受け入れを断るようなことがあれば、救急隊からは疑問視されてしまうでしょう。

2-2.症状以外による受け入れ基準のブレ

患者さんの症状とは別に、受け入れるかどうかを左右する要因があります。

病院としては、

患者さんが診療に協力的でありスムーズに終わること

が重要ですが、患者さんの状況によってはスムーズに診療できなかったり、診療に非協力的であったりと、思うように診療できない人がしばしばいます。

飲酒をして酔っぱらっている中での転倒や暴行被害、また急性薬物中毒など・・・

病院が嫌がることは救急隊も嫌です。どこか病院が搬送を受け入れてくれなければ救急隊は長いこと救急車内でその患者さんの面倒を見続けなければなりません。

そんなやっかいな患者さんを二つ返事で受け入れてくれる病院があればどうでしょう?

救急隊は抱きしめたくなるでしょうね。

2-3.患者受け入れ基準をブレさせないこと

患者の受け入れ基準がブレさせないことが一番ですが、担当する医師によって受け入れできる患者に差があるのは仕方のないことです。

そのため受け入れできる最低ラインを定めた「搬送受け入れマニュアル」を救急隊(消防署)に事前に配布してみてもいいかもしれません。

病院それぞれの受け入れ基準が把握できていれば、救急隊は無駄に病院に搬送連絡をかけなくて済みます。

救急隊のことを考えて病院側から事前に情報を提供したりして歩み寄ることで、救急隊から信頼してもらえる病院となることができます。

 

3.連絡を受ける職員は誰か

救急隊からの搬送連絡を受ける職員が誰かということも重要です。

もちろん一番いいのは「医師」です。

医師なら救急隊がどれでけ医療用語を伝えても聞き落とすことはありませんし、患者がどういった状況でそれはどれほど危険な状態かを判断することができます。

しかし、病院の中には救急隊からの搬送連絡を医師ではなく「事務員」や「警備員」が受けているところもあります。

医療事務を担っている事務員であれば、ある程度の医療知識があるとはいえ、医師の比ではありません。

そうなれば救急隊が話す内容が理解できなかったり、緊急性を把握できなかったりして救急隊にストレスを与えかねないのです。

また、救急隊からの連絡を医師が受ける場合は

自分がその患者を診療できるかどうか

で判断すればいいのでレスポンスが早く済みますが、事務員や警備員が連絡を受ける場合、救急隊から聞いた情報を一旦医師に伝え、受け入れられるかどうかを確認する手間が発生します。

救急隊 搬送依頼

この手間が大きなタイムロスとなるため、一刻を争うような状態であれば、「事務員や警備員が連絡を受ける病院にはかけないでおこう」と救急隊が考えても不思議はありません。

事務員や警備員だけでも患者さんを受け入れていいか判断できるよう「搬送受け入れマニュアル」を整備している病院もありますが、搬送連絡を話の通じにくい医師以外が受けるということだけで、救急隊はその病院へ連絡することが億劫になる可能性があるのです。

 

4.救急隊用の飲み物はあるか

救急隊にねぎらいの意味を込めて無料で飲み物を提供する病院は多いです。

患者を病院に搬送した救急隊は、たとえば救急外来にある救急隊専用の冷蔵庫から缶コーヒーなどを持っていき、のどを潤すのです。

もしかしたら、飲み物以上のねぎらいを行う病院もあるかもしれませんが、定かではありません。

飲み物がある病院か無い病院か、どうせ搬送するなら飲み物がある病院の方がいいでしょう。

もちろん飲み物が搬送先を決定する決め手にはなり得ませんが、あると嬉しいですし、なによりその病院の気持ちがありがたいです。

救急隊に好んでもらえるよう、ある程度のねぎらいは充実させておくことをおススメします。

 

5.病院職員が救急隊とどう接しているか

もはやこれは記載するような内容ではないのかもしれませんが、礼儀に配慮できていない人も多いのです。

救急搬送は救急隊が病院に診察(搬送の受け入れ)を依頼するというその性質上、どうしても病院側が有利な立場だと考える病院職員がいます。

もちろん患者さんを搬送してもらうことは収益につながるため、病院側が「受け入れてやっている」という感覚はちゃんちゃらおかしいのですが、悲しいかなそう考える病院職員がいるのです。

救急隊に対して高圧的な態度で接したり、いい加減な対応ばかりを取っていると、救急隊も嫌気がさしてきます。

救急隊と病院、決してどちらが上だとかいうのではなく、地域の医療を共に担う仲間という感覚で協力して救急医療にあたることが大切です。

 

6.本記事のまとめ

救急隊に嫌われる病院のまとめです。

  • 受け入れできる患者の基準がブレる
  • 搬送依頼の連絡を医師以外が受ける
  • 救急隊に対して飲み物などねぎらいがない
  • 救急隊に高圧的やいい加減な態度で接する

 

7.おわりに

以上、救急隊に嫌われる病院の特徴について書いてきました。

救急隊も病院も志しは全く同じですので、常日頃から情報共有を密にし、連携を取り合いながら業務にあたっていくことがベストであると考えます。

また両者は完全に「持ちつ持たれつ」の関係性であることを念頭に置き、お互いを思いやる気持ちを忘れないでいてください。

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