119番を受け、救急車で患者を搬送する救急隊とその患者を受け入れ診療を行う病院。
もし自分や身内に緊急事態が生じて救急車を呼ばないといけなくなった時、どこの病院に運ばれるか不安に感じたことはありませんか?
実は、救急隊が病院を選ぶ際にはある程度のルールに基づいて患者を搬送する病院を選択しているのです。
この記事では、病院に医療事務員として勤める筆者が、患者さんが119番の電話をしてから病院に搬送されるまでの流れや病院選定基準をお伝えしていきます。
この記事を読んで、少しでも緊急時の不安が解消されましたら幸いですので、ぜひ最後までお読みください。
今回の記事では救急車を呼んだ際の内容になっていますので、あまりなじみがない方も多いかもしれませんが、知識を持っていることで緊急時に慌てず対応できるかと思います。
項目ごとに説明していきますので、1つずつ読み進めてください。
1.隊員の役割
まず最初に語句の整理として、「消防署」と「救急隊」についてですが、消防署に勤める消防士が、一定の基準を満たことで救急隊員として従事することができます。
消防署の業務が「消防」と「救急」なので、隊員はその両方を行うのです。
2.救急搬送の流れ
はじめに救急搬送の流れについておさらいします。
ご存じの方もそうでない方もいらっしゃるでしょうから、ここで今一度、119番の通報から病院に搬送されるまでの流れをみていきましょう。
下の図をご覧ください。
- 症状がでる
- 救急車を呼ぶ
- 救急車が到着し車内に収容される
- 救急車内で患者を診療できる病院を電話で当たっていく
- 電話を受けた病院が診療可能なら受け入れる
- 救急車が病院に到着し診療が開始される
このように、まず患者に症状が発生すると119番で救急車を呼びます。
患者の元に到着した救急隊は患者を救急車の中に収容してから、患者を受け入れてくれる病院を探します。
救急隊から病院へ電話をかけ、病院が患者を診療できる状況であれば、受け入れ可能となり、救急隊が患者を病院まで搬送します。
救急隊が病院に到着したら、病院側に患者を引き渡して終了です。
そこから病院は患者の診療を開始するのです。
3.救急隊の病院選定基準
救急隊が患者さんを搬送する際、どのような基準で病院を選んで搬送依頼の電話をかけているのでしょうか。
基本的に消防署はその「市」ごとに存在しますので、自分たちの市内にある病院で完結させることが第一です。
下の図をご覧ください。
A市に住む患者さんが自宅で症状が出て、119番を依頼した場合、A市の救急隊が患者さん宅へ駆けつけ、救急車に載せます。
そして、概ね以下のパターンの中から病院が決定し、搬送されるのです。
パターン1:
A市の救急隊は、患者さんをA市内にある「いろは病院」に診療依頼をする。(かかりつけ・かかりつけでない問わず)
パターン2:
患者さんの症状がひどく一刻を争うため、A市の「いろは病院」より近いB市の「ほへと病院」に搬送依頼をする。
パターン3:
患者さんのかかりつけの病院がB市の「ほへと病院」のため、「ほへと病院」へ搬送依頼をする。
例外もたくさんありますが、基本的に救急隊はこれらのような判断基準をもって、患者を搬送する病院を決定します。
原則をまとめますと、
かかりつけの病院≧同一市内の近隣病院>隣接する市の距離が近い病院
このように、かかりつけかどうかということが優先され、次に市をまたぐかどうか、そして距離はどうかが加味され、搬送先が選定されるのです。
もちろん、搬送依頼を受けた病院がその患者さんを様々な事情により受け入れられない場合は、また次の病院を探すことになります。
4.かかりつけの病院を持とう
以上のように、緊急時にはかかりつけの病院へ運んでくれることがわかりました。
病院によっては、「かかりつけの患者以外は救急を受け入れない」というところもありますので、そのためにもかかりつけの病院を持つことは重要です。
ですが、救急車が搬送先として選ぶような病院は「2次医療(2次救急)」と呼ばれる、入院が必要な症状の患者を主に対応する役割を担っていますので、風邪などの軽度な症状では診「1次医療」の医療を担う役割をもつ診療所に受診するようにしてください。
1次医療で対応できない症状や疾患であれば、2次医療に紹介され、受診することによってかかりつけの病院を持つ という流れになります。
まだそんなに身体に異常がない方も、健康診断などで近隣の通いやすい病院に行き、診察券を作っておくと緊急時の受け入れがスムーズです。
5.出先での緊急時はどこに搬送してくれるのか
自宅が所在する市から離れた出先で緊急事態になって119番に依頼した場合、どこの病院に運んでくれるのでしょうか?
このケースでも、基本的には緊急事態の「発生場所」が基準となりますので、119番の電話をかけた場所が所在する市の救急隊が現場にかけつけ、その市内にある病院に搬送依頼をかけることとなります。
たとえば、ユニバーサルスタジオジャパンの中で救急車を呼ばないといけなくなった場合、ユニバーサルスタジオジャパンのある「大阪市(此花区)」の救急隊が現場にかけつけ、そこから最寄りに病院に搬送することになります。
あくまで基準となるのは「発生場所」であり、「患者さんの住所」ではありません。
そして、救急車はタクシーではありませんので、かかりつけがあるからといって、いくつもの市をまたいで遠くのかかりつけ病院まで搬送してくれるとうことは原則としてありません。
発生場所から近い病院が初期対応をし、それでもかかりつけ医の診療が必要なのであれば、その病院からかかりつけ医に移動する「転院」となることがセオリーでしょう。
ただ、上記の原則の例外もありますので、かかりつけの病院があることは必ず救急隊に伝えてください。
患者さんのことを一番理解しているかかりつけでの診療がベストだと救急隊が判断すれば、すぐさまかかりつけへ搬送してくれることもあります。
6.おわりに
救急隊が緊急時に搬送する病院を選ぶ基準がわかったことで、少し安心を得ることができたのではと考えます。
これをお読みのまだお若い方も、ご両親やご祖父様・ご祖母様にもしものことがあった場合に迅速に対応できるよう、知識として定着しておいてくださいますと幸いです。