労災診療の基本について解説【必要な書類などわかりやすく】

労災診療 医療費

働く人たちが仕事する中で、その仕事が原因でケガをしたり病気になったり、または仕事場までの通勤の途中でその通勤が原因で
ケガをしたり病気になったりした場合、労災保険から様々な保険給付が行われます。

この記事では、医療事務員である筆者の立場から、労災保険における療養の給付、いわゆる 労災診療について解説していきます。

職場には労災担当の方もいらっしゃいますが、事前にご自身で把握しておくことで緊急時の対応も安心ですので、ぜひ最後までお読みください。

1.労災とは

まず労災診療に入る前に前提となる労災についてですが、正式名称を労働災害といい、仕事中にケガをしたり、仕事が原因で病気になることをいいます。

仕事中とは、純粋な労働時間(残業時間も含む)はもちろんのこと、仕事場までの通勤途中に起こったケガや病気も労災として扱われます。

1-1.労災の例

以下に簡単な労災の例を挙げます。

  • 料理人が料理中に包丁で指を切る
  • 工場で機械に頭をぶつけて打撲傷
  • 営業の外周りで自動車事故に遭う
  • 自転車通勤中に転倒して右膝打撲
  • 酷暑の炎天下の作業で熱中症に陥る

 

2.労災診療とは

労災診療とは、労災によって生じたケガや病気に対する診療のことを指します。

診療内容自体は通常の診療と特に違いはありませんが、治療費の支払い方法や診療報酬の単価が異なります。

2-1.労災は1点12円

治療費を表す診療報酬は、通常の健康保険による診療の場合、1点10円で計算されますが、労災では1点が12円で計算されます。

たとえば、簡単な傷の手当てを行う創傷処置は52点ですので、

  • 保険診療:52点×10円=520円
  • 労災診療:52点×12円=624円

このように、健康保険での診療と労災保険での診療を比較すると、これだけ治療費に差が生じることになります。

 

3.労災診療の流れ

労災診療は、仕事中のケガや病気の発生を起点として、以下の図のような流れをとります。



①で仕事中にケガや病気が生じた場合、受傷した従業員本人やその上司が状況を説明し、会社側がはそれを事実だと認定したことを証明する書類が②で発行され、その書類持って③で受診したい医療機関に提出し、診療を受けます。

会社から②の書類が発行されていれば、患者である従業員は医療機関での支払いすることなく診療を受けることができます。

3-1.労災を認定する労基


多くの方が勘違いされているポイントですが、労災にあたるかどうかを認定するのは誰でしょう。

それは会社側でなければ診療した医師でもありません。

労働基準監督署(以下:労基)です。



この①ように、労災患者から(あるいはその会社から)書類を受け取った医療機関側は、労災診療の扱いとして患者を診療し、診療内容の明細である診療報酬明細書、通称「レセプト」を労災の書類と合わせて労働基準監督署に送付します。

②で医療機関から労災の書類とレセプトを受け取った労働基準監督署がそれらを審査し、労災と認定するかどうかを判断するのです。

③で労災が認定されれば労基から医療機関に診療費が振り込まれます。

ここまでが労災の発生から治療開始、そして請求完了までの流れです。

3-2.労災に関わるかの診断は医師

労災の認定は労働基準監督署が判断するとのことでしたが、医師の診断も重要になってきます。

たとえば、労災で左足を受傷したために左足をかばいながら生活したことで右足も痛めてしまったため、右足に対して診療を受けた場合はどうでしょう。

この場合、「右足の痛みは労災が根本の原因である」かどうかは医師の判断に委ねられることになります。
※あくまで一例です。

 

4.労災診療の申請に必要な書類

先程から出てきている労災の書類ですが、ケガや病気が発生した時、仕事中か通勤途中かで必要な書類が異なり、かつ受診する医療機関が1つ目か2つ目以降かでも書類が異なってきます。

書類が必要なケースは、大まかに以下の4つに大別することができます。

  1. 療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書 業務災害用・複数業務要因災害用(様式第5号)
  2. 療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第6号)
  3. 療養給付たる療養の給付請求書 通勤災害用(様式第16号の3)
  4. 療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第16号の4)

以上は医療機関用であり、その他の薬局や整体(柔整)、はり・きゅうなどで労災保険を使用する場合、また別の様式が必要となりますので、厚生労働省のホームページをご参照ください。

以下にパターンごとに必要な書類を説明していきます。

基本的には職場の労災担当の方に相談すれば状況に応じた書類を作成してくれますが、たまにわかっていない担当者の方もいますので、以下の内容を頭に入れておいてください。

 

4-1.業務中のケガや病気

業務中のケガや病気の場合、療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書 業務災害用・複数業務要因災害用(様式第5号)、通称:5号様式が必要です。

5号様式は労災の書類の中でも最もポピュラーだといえるでしょう。

4-2.通勤途中のケガや病気

通勤途中のケガや病気の場合、療養給付たる療養の給付請求書 通勤災害用(様式第16号の3)、通称:16号の3様式が必要になります。

基本的に記載内容は5号様式と大差ありませんが、労災の発生場所が職場外であることから、簡単な地図の記載が必要です。

4-3.2つ目以降の医療機関に受診

労災の受傷状況によっては、最初に受診し5号様式もしくは16号の3号様式を提出した医療機関だけでは診療が不十分なケースが生じることがあります。

たとえば、顔面を強打して前歯が折れたのに救急で運ばれた一つ目の病院には歯科がなかった場合、歯の専門的な治療を受けるべく歯科のある医療機関を受診するといったケースです。

この場合、2つ目に受診した医療機関では療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第6号)、ないしは通勤災害であれば療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第16号の4)が新たに必要となります。

2つ目の医療機関を受診するのであれば、1つ目の医療機関の治療がそのまま継続していたとしても「変更届」として6号様式もしくは16号の4様式を医療機関に提出しなければなりません。

上記の顔面強打の例でいうと、1つ目の医療機関で顔面(鼻や額など)の治療を受けつつ、同時に2つ目の医療機関で歯の治療を受けるといった同時並行の場合でも「1つ目」「2つ目」と考えます。

6号様式や16号の4様式が「(変届)更」なので、ひっかかる方も多いのですがその扱いで大丈夫です。

さらに3つ目、4つ目と受診する医療機関が増えていった場合も、その3つ目や4つ目の医療機関には6号様式もしくは16号の4様式が必要になります。

 

5.労災指定と労災指定でない医療機関

医療機関の中には労災指定の医療機関と労災指定でない医療機関が存在します。

労災指定の医療機関を受診した場合であれば本記事でここまで説明した通りになりますが、労災指定でない医療機関を受診した場合手順が異なります

書類は業務中なら療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書 業務災害用・複数業務要因災害用(様式第7号(1))、通勤途中なら
療養給付たる療養の費用請求書 通勤災害用(様式第16号の5(1))が必要になります。

また、治療費も患者さんが医療機関窓口で一旦支払わなければなりません。

そしてご自身や職場から労基に治療費を請求する段取りを取らなければならないと、大変手間がかかります。

大抵の病院は「労災指定」ではありますが、労災指定でない医療機関もありますので、受診する前に労災指定かどうか調べておきましょう。

 

6.労災保険の保険料は職場持ち

労災保険の保険料は全額職場が負担してくれています。

組織として従業員を一人でも雇用している職場は必ず労働保険に加入する必要があるため、職場が労災保険に加入していないということはあり得ません。

また、労災が起こった際、

「労災保険は使えないから健康保険で受診してくれ」

ということは「労災隠し」と呼ばれ、完全に違法です。

 

7.本記事のまとめ

  • 労災とは勤務中にケガや病気が生じることである
  • 労災は勤務中だけでなく通勤途中でも適用される
  • 労災を認定するのは職場や医師でなく労基である
  • 労災は状況に応じて必要な書類が異なる
  • 労災隠しは犯罪である

 

8.おわりに

以上、労災について説明してきました。

業務中および通勤途中にケガや病気が生じた場合、必ず職場に申告し、労災として診療を受けるようにしてください。

職場へ迷惑がかかるのではと勘ぐったり、評価に響くといったことは一切考えなくて結構です。

ケガや病気が重症化するまで働いて身体を壊しては元も子もありません。

ご自身の身体を第一に、労災保険という権利を行使していきましょう。

 

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