令和2年度の診療報酬改定でさらに点数が上がり、医師の働き方を改革するための今後ますます重要視される職種である「医師事務作業補助者」。
この記事では医師事務作業補助者に必要な6か月の研修と32時間研修について完全に解説していきます。
本記事を読んで、医師事務作業補助体制加算の算定要件である医師事務作業補助者の研修をしっかり把握し、施設基準と照らし合わせて漏れのないよう整えていきましょう。
目次
1.医師事務作業補助者のおさらい
はじめに、医師事務作業補助者について基本をおさらいしておきましょう。
2.6か月の研修と32時間研修
施設基準を満たし医師事務作業補助者を所定の人数配置したのち、医師事務作業補助者に研修を実施することで医師事務作業補助体制加算を算定することができるようになります。
その医師事務作業補助者の研修が、いわゆる6か月の研修と32時間研修という研修です。
「医師事務作業補助者として新たに配置してから6か月間は研修期間として、業務内容について必要な研修を行う。なお、6か月の研修期間内に32時間以上の研修を実施するもの」
※医師事務作業補助体制加算の施設基準より抜粋
これが医師事務作業補助体制加算を算定するために必要な要件となります。
2-1.6か月の研修の内容
6か月の研修は医師事務作業補助者として配属された日を起点として、6か月間の研修が始まります。
研修内容としては、「業務内容について必要な研修を行う」と記されており、「実際に医師の負担軽減及び処遇の改善に資する業務を行わせる」以外は具体的な研修内容や研修方法は指定されていません。
基本的には医師事務作業補助者の部署に配属し、先輩や上司の指導を受けながら診断書作成から始めていくことなるでしょう。
病院ごとにルールや業務のフローは異なりますので、それらの実情を踏まえつつ、医師事務作業補助者の業務内容を担当させ、指導を怠らないようにしましょう。
医師事務作業補助体制加算を算定しているならば、研修中のその方はまぎれもなく「医師事務作業補助者」です。
研修期間だからといって、医師事務作業補助者に関係のない業務や雑用などはさせてはいけませんので注意しましょう。
2-2.32時間研修の内容
32時間研修の研修の内容は外枠がしっかりと決まっています。
- 1.医師法、医療法、医薬品医療機器法、健康保険法等の関連法規の概要
- 2.個人情報の保護に関する事項
- 3.当該医療機関で提供される一般的な医療内容及び各配置部門における医療内容や用語等
- 4.診療録等の記載・管理及び代筆、代行入力
- 5.電子カルテシステム(オーダリングシステムを含む)
これらの5項目に基づいた基礎知識の内容で研修を行うことと定められています。
概ねこの5項目を踏まえていれば、細かい内容や方法、時間配分などは病院で自由に設定していいようです。
たとえば、
医師事務作業補助者のあり方 | 1.5時間 |
---|---|
医師法等、健康保険法等の関連法規の概要 | 1.5時間 |
診療支援業務と配置部署の診療の流れ | 1.5時間 |
診断書・証明書等の実務 | 1.5時間 |
このように、研修科目や研修時間は自由に設定可能ですし、「座学」だけでなく「OJT」や「レポート形式」での研修も可能です。
3.32時間研修を既存の講習で代替
平成20年5月9日 厚生労働省保険局医療課 事務連絡にて以下のような疑義解釈があります。
問 医師事務作業補助体制加算の施設基準となっている研修について、既存の講習等を受けた場合にあっては、免除されるか。
答 基礎知識講習については、適切な内容の講習の時間に代えることは差し支えない。ただし、業務内容についての6か月間の研修は実施する。適切な内容の講習には、診療報酬請求、ワープロ技術、単なる接遇等の講習についての時間は含めない。なお、既存の講習等が32時間に満たない場合、不足時間については別に基礎知識習得の研修を行う。
要約すると、
医師事務作業補助者の32時間研修は、内容が沿っているなら新たに医師事務作業補助者専用の研修(講習)を創設しなくても、既にある研修に置き換えて受講してもらってよい
ということになります。
たとえば、ある病院では従来から新入職者向けに健康保険法についての研修をしているのであらば、医師事務作業補助者の方をその研修に参加させて32時間研修としてカウントできるのです。
また他部署に目を向けると、薬剤部では新人薬剤師に向けて、検査科では新人臨床検査技師に向けて何かしらの研修を行っています。
そのように病院内ではわりと研修が行われているでしょう。それらを32時間研修の内容に当てはめていくことで、従来からある研修で32時間のうちの結構な時間は賄えるかと思います。
ただし、それらが医師事務作業補助者に配置されてから6か月以内に実施する必要があることを忘れないようにしましょう。
4.32時間研修を病院外で受講する
32時間研修は自己の病院内で実施しなければならないという規定はありません。
しっかり基準を満たしているものであれば、外部の研修を受講してもいいのです。
調べてみると医師事務作業補助者の32時間研修の代替となる研修を実施する講座が複数個見つかるでしょう。
一例に一般社団法人 日本病院会の主催する医師事務作業補助者コースの研修リンクを貼っておきます。
このように外部の機関が行う研修に受講させること可能ですし、複数の病院を持つ医療法人などであれば複数病院から医師事務作業補助者を集めて一か所で大規模な研修をすることも可能です。(密にはご配慮ください)
それぞれの病院で研修を実施するより、一つにまとめて研修をする方がコストパフォーマンスが良いです。
5.32時間研修の受講時期
「医師事務作業補助者として配置されてから6か月間を研修期間とする」
とあるように、研修の時期は基本的には入職後、医師事務作業補助者として配置されてからということになります。
上記の一般社団法人 日本病院会の主催する医師事務作業補助者コースを受講するにあたっても、受講対象者に「病院管理者(主に病院長)が認めた者」と定められているケースや、受講に病院長の推薦状が必要となるケースもあります。
しかし平成30年10月9日 厚生労働省保険局医療課 事務連絡にて以下のような疑義解釈が発せられました。
問 (上記問において)基礎知識習得については、適切な内容の講習の時間に代えることは差し支えないとされているが、医師事務作業補助者が新たに配置される前に基礎知識習得に係る研修を既に受けている場合には改めて研修を受ける必要があるか。
答 医師事務作業補助者を新たに配置する前に、当該医師事務作業補助者が基礎知識を習得するための適切な内容の研修を既に受けている場合は、当該医師事務作業補助者に再度基礎知識を習得するための研修を行う必要はない。ただし、業務内容についての6か月間の研修は実施すること。
要約すると、
医師事務作業補助者として配置される前に32時間研修に沿った研修を既に受講しているのであれば、改めて研修を受講する必要はない。しかし、医師事務作業補助者の業務内容に関する6か月の研修は実施すること。
ということです。
この疑義解釈を受け、病院に所属していなくても32時間研修を受けることが一般的となりました。
病院としても、医師事務作業補助者が既に32時間研修を受講しているのであれば、改めて受講させる手間が省けるため、大変重宝されます。
6.32時間研修の受講方法一覧
32時間研修の受講方法を以下の通りまとめました。
- 勤務先の病院の研修を受ける
- 外部業者が実施する研修を受講する
- 専門学校などの養成機関で履修する
現状でこれだけの方法があります。それぞれ費用やかかる時間が異なりますので、あなたにとってベストの選択をするようにしましょう。
6-補足.32時間研修が免除される資格
特定の資格取得者であれば32時間研修を受講した人と同等の知識があるとされ、それを証明する資格認定団体もあります。
7.転職をした場合の扱い
7-1.6か月の研修の扱い
平成30年10月9日 厚生労働省保険局医療課 事務連絡を踏まえると、6か月の研修は転職するたびに必要になるだろうと推察することができます。
7-2.32時間研修の扱い
逆に32時間研修の場合、所属する病院であれ、外部で受けた研修であれ、「32時間研修を修了した」ということはどの病院でも通用するということになります。
そうとなれば、一度32時間研修を修了した人はたとえ転職をしたとしても、転職先の新たな病院で改めて32時間研修を受講する必要はありません。
iv>
8.本記事のまとめ
- 6か月の研修期間と32時間研修が必要である
- 6か月研修は業務内容についての研修を行う
- 32時間研修は定められた5項目に沿って行う
- 32時間研修は外部機関等が実施する講座でも可能
- 32時間研修は医師事務配属前に受講することもできる
- 診療情報管理士など一部32時間研修を免除する資格がある
- 転職をした場合改めて6か月研修は必要だが32時間研修は不要
9.おわりに
ここまで書いてきてなんですが、32時間研修の代替がどこまで認められるかは、正直なところ未知数です。
32時間研修を謳う外部の民間団体も「32時間研修が免除されるかどうかは各地の厚生局にお問い合わせください」と案内しているほどです。
ですが、従来の32時間研修が病院内で行うことをよしとしてきたのであれば、外部の民間団体が行う研修は費用が発生している分、その質は病院内で行う研修より高いものとなるでしょう。
医師事務作業補助補助体制加算を算定する以上、適時調査になど外部監査に備えるべく、「32時間研修の修了書」や「6か月研修の記録」などはしっかりと保存しておくことを忘れず、また医師事務作業補助者にとって最適な研修を実施できるよう心掛けてください。