急病や事故などで入院を余儀なくされた方は大きな不安を抱えていらっしゃることでしょう。
身体のことはもちろん、治療費のことも心配しないといけませんから、なかなか心穏やかに過ごすことはできません。
そんな状況で入院してくる患者さんに対して、病院は
「現在大部屋はいっぱいですので、個室料のかかる個室に入ってもらいます。」
といって個室料の同意を取ろうとしてくるところがあります。
ですがちょっと待ってください。
患者さんが希望していない限り、個室料を支払う必要は絶対にありません。
この記事では15年以上医療事務に携わる筆者が、希望していない個室への入院では個室料を支払う必要がない理由について解説していきます。
患者さんにはお金の心配はして欲しくないため、この記事を読んで不安を払拭してもらえれば幸いです。
目次
1.個室料とは
個室料とは、その名の通り病院に入院した際に大部屋ではなく、個室に入院した場合に1日毎に発生する費用のことです。
費用は病院や個室のグレードにより大きく異なりますが、3,000円~30,000円程度で設定している病院が多いでしょう。
個室料は健康保険が効かず、実費で全額支払う必要があります。
室料差額、個室ベッド代、特別室、お部屋代など、病院によってその表現は様々ですが、全て同じ扱いであり、本記事では「個室料」として統一して述べていきます。
一般的に入院といえば、4人部屋など他の患者さんもいる大部屋において、割り当てられた一つのベッド(病床)で療養することをいいます。
こういった大部屋には「部屋代」が設定されておらず、「入院基本料」というかたちで日単位の費用が発生します。
入院基本料は他の保険診療と同様にその範囲内に含まれるため、健康保険の範囲内のものです。
※入院基本料は病院や病名によって異なりますが、複雑なので本記事では割愛します。
このように、4人部屋などの大部屋に入院すれば部屋代はかからないのですが、各病院が料金を設定している個室に入院した場合に限り「個室料」が発生するのです。
1-sub.個室料と入院基本料のカウント
ちなみに、個室料と入院基本料の計算は「1日単位」です。
ホテルや旅館は宿泊料金を「一泊二日」「二泊三日」など泊数で計算しますが、個室料と入院基本料は1日ごとに計算されるため、一泊二日の入院をした場合、二日目の午前中に退院したとしても、丸々二日分の個室料と入院基本料が発生します。
2.個室への入院条件
では個室に入院したい場合はどうすればいいのでしょう?
それは「患者さんやその家族さんが個室への入院を希望すること」だけでOKです。
個室が空いていれば入院することができますし、入院時に個室が埋まっていれば、空き次第個室に移ることもできます。
基本的に個室は空いている傾向にありますので、希望すれば大体利用することができるでしょう。
3. 患者が希望しない場合の個室料は
ここからが本記事の本題です。
冒頭の例(以下:本ケース)のように、
「現在大部屋はいっぱいですので、個室料のかかる個室に入ってもらいます。」
こんな病院側の一方的な押し付けで個室に入院させられた患者さんは、個室料を支払わなければならないのでしょうか?
本ケースでは患者さんは個室への入院を希望していないため、個室料を支払う必要はありません。
あくまで患者さんの「希望」であることが個室料の発生要件であり、病院側の都合による個室への入院は個室料を支払う必要はないのです。
4. 実質的に患者の選択によらない場合
このように、患者さんの希望によらないケースを条文的な表現として「実質的に患者の選択によらない場合」としてまとめることができます。
4-1.大部屋がいっぱい
本ケースのような「大部屋がいっぱい」という状況は、大部屋には入院できる空きベッドがないことを指しますが、大部屋に空きがない状況を作ったのは病院側であり、患者さんに責任はありませんよね。
たとえそれが「救急車で一刻を争うような患者さんが予期せぬほど搬送されてきて入院させたがために大部屋が埋まってしまった」としてもです。
救急医療にあたっている病院は、その地域の医療を支えてくれていることは確かですが、だからといって他の患者さんの代わりに希望もしていない個室に入らされて個室料を支払う必要はないのです。
4-2.患者さんの病状によるケース
患者さんの病状によっては個室管理が必要なケースもあります。
たとえばICU(集中治療室)に入るほどではなくとも、一般病棟のナースステーション近くの個室で管理する必要があるような病状の患者さんです。
そんな場合ももちろん患者さんの希望で個室に入るわけではありませんので個室料はかかりません。
ちなみにそのようなお部屋は「重症部屋」や「重症個室」といった名称がつけられているでしょう。
5.個室料を支払う必要がないという根拠
なぜ筆者はここまで「個室料を支払う必要がない」と断言するのでしょうか。それは厚生労働省がそう発信しているからです。以下抜粋↓
特別療養環境室の提供について、「患者への十分な情報提供を行い、患者の自由な選択と同意に基づいて行われる必要があり、患者の意に反して特別療養環境室に入院させられることのないようにしなければならないこと。」
とされており、これの例として
「特別療養環境室以外の病室の病床が満床であるため、特別療養環境室に入院させた患者の場合」
とはっきりと明文化されているのです。
事 務 連 絡 平成30年7月20日 – mhlw.go.jp
6.個室のメリットとデメリット
とはいえ、個室に入るメリットもたくさんあります。料金以外のデメリットと併せて見ていきましょう。
6-1.メリット
治療に専念できる
感染対策が万全である
他患者さんに干渉されない
プライバシーが確保されている
不要な情報をシャットアウトできる
お見舞いなど家族の出入りに制限が少ない
テレビ鑑賞や冷蔵庫利用が個室料に含まれている
6-2.デメリット
面会時間以外は孤独でさみしい
万が一の時に発見が遅れる可能性がある
7.本記事のまとめ
- 大部屋ではない部屋では個室料がかかる
- 患者やその家族が希望しなければ個室料はかからない
- 個室に入院するメリットは大いにある
8.おわりに
以上、希望しなければ個室料を支払う必要がないことについて説明してきました。
例に出したように、悪意を持って個室への入院及び個室料を請求してくる病院がたくさんあるわけではありませんが、職員がルールを理解していない可能性は大いにあり得ます。
もし個室に入院して個室料を請求されそうになった場合、
「これは『実質的に患者の選択によらない場合』か?」
どうかをよく考えてみてください。
これをお読みになった方が不当に個室料を支払うようなことにならなければ幸いです。