病院には様々な民間病院や公立病院など経営母体が存在しますが、経営母体によって働く職員の業務内容や待遇など「働きやすさ」は大きく変わります。
筆者が新卒で入職した民間病院と社会人12年目で就職した現在の公立病院の2つの病院での勤務経験を踏まえると、
私見ですが、民間病院より公立病院の方がはるかに働きやすい
と感じます。なぜ公立病院の方が働きやすいのでしょうか?
この記事では、医療事務員である筆者が、民間病院と公立病院での勤務経験から両者の特徴や違いについてお話していきます。
事務員中心の内容にはなりますが、病院全体の風土や慣習はそこに勤務するどの職種にもあてはまりますので、職種問わずどのような病院に就職すべきか、お悩みの皆さんの一助となりましたら幸いです。
ブラック病院もたくさんある中で、これを読まれた方が少しでもブラック病院を回避できるよう、判断材料にしてみてください。
目次
1.それぞれの定義
まず前提として「民間病院」と「公立病院」の定義ですが、
民間病院
民間の医療法人が経営している病院
日本の病院の中でも民間病院は全体の約60%を占める
地域密着型の小さな病院から高度医療を提供する大きな大学病院まで規模はさまざま
公立病院
地方自治体を母体とする病院(〇〇市民病院など) ⇒公務員
厚生労働省が定めた公的団体を運営母体とする病院
・国立大学法人(〇〇大学附属病院など) ⇒公務員でない
・独立行政法人 国立病院機構(〇〇医療センターなど) ⇒公務員でない
民間病院と公立病院の両者の違いはこのようになっています。
昨今は公立病院がどんどん独立行政法人化していく流れにあり、そのような病院が「公的病院」と表記されます。
そのため、厳密には公立病院と公的病院は異なりますが、職場環境や待遇が従来の公務員時代とほとんど変わっていないことから、本記事では便宜上「公立病院」と表記します。
下記に図を添付しましたので、大まかではありますがイメージをつかんでみてください。
2.業務量
2-1.民間病院
民間病院の業務量はなかなかハードです。
近年では2次救急を担う救急病院であれば、24時間365日空いているのが当たり前で、平日の午後診療や土曜日の午前診療、また夜勤もあります。
そのため、休みは少なく残業は多いです。
利益を出すためにはまず人件費の節約が基本ですので、ぎりぎりの人員配置となり、一人ひとりの業務量のゆとりは少ない傾向にあります。
2-2.公立病院
公立病院の業務量は「適正」です。
土日祝は休みの病院がほとんどで、定時にはほぼ上がることがでいるような業務量が割り振られます。
正職員だけでなく、派遣社員の方もたくさん働いていることも業務量の負担軽減に一役買ってます。
要は人件費のかけ方が民間病院とは違うということですね。
例外として、民間病院とはいえ主に3次救急を担う大学病院では、どちらかといえば公立病院のように適正な業務量の傾向にあります。
3.人間関係
3-1.民間病院
民間病院は「アットホームさ」や「ファミリー感」があるため、職員間の距離が近いという傾向にありますが、それがわずらわしいと感じる人には向かないでしょう。
仕事終わりの飲み会も定期的に開催されますし、病院全体での職員旅行や新年会・忘年会などもあります。
新卒一括採用で同期がたくさんいるため、学生のノリで同期と楽しむことはできますが、「同期がたくさんいる」ということはその分「人が辞めている」ということなので、そういった職場はブラックであると言えるでしょう。
3-2.公立病院
公立病院の人間関係はドライです。
業務中に職員間で私語をすることは少なく、それぞれが淡々と仕事をこなします。
そして定時になったらパッと退勤し、即帰宅しています。
プライベートまで職場の人と関わりたくない人にはおススメです。
その要因として、公立病院は基本的に居心地がよく人が辞めないため、同期入職の同世代があまりいないことが挙げられるでしょう。
4.残業に対する考え方
4-1.民間病院
民間病院は人件費の削減が常に求められますので、手を替え品を替え、なんとかして人件費を下げようとします。
昇給の額が低かったり、昇給しなかったり、ボーナスが減ったり、人員を削られたり、人件費を下げるためならなんでもするでしょう。
そしてそれはもちろん残業代のカットも行われます。
「働き方改革」で一昔前までの、当たり前のように行われたサービス残業の強制などはできないでしょう。
しかし、上司が部下に
「本当に残ってまでやるべきことだったのか。何をやっていたか言ってみろ。」
と詰め寄って満足に回答できないなら
「それなら仕事とは言えないから残業ではないな。」
と残業代を支給しないケースが未だに存在します。
4-2.公立病院
基本的には定時に終わるような業務量ですが、残業になった場合、残業代は満額つきます。
私の職場の例でいえば、パソコンで出退勤の打刻を行うのですが、事前に申請している勤務時間より早かったり遅かったりすれば、必ず理由を入力する必要があります。
そして、超過勤務の申請をしなければエラーとなります。
つまり、残業したならその分しっかり申請しないことにはパソコン上、エラーの扱いになるため、上司にサービス残業を強いられることがありません。
5.利益追求と職員の負担
5-1.民間病院
民間病院は利益を出すことが最優先です。
(厳密にいえば、病院は利益を追及してはいけない(非営利)機関ではありますが、それは規範上のお話なので置いておきます。)
一般企業と同じように、自分たちで利益を出さないことには誰も助けてくれませんので、患者数や手術件数の増加を目的とした対策を常に考える必要があります。
そしてそのしわ寄せが職員にやってきます。
たとえば収益が落ちた時、
「なぜ収益が減少したのか分析せよ」
と院長が言えば、鶴の一声で職員は動かざるを得ず、その分析作業に追われ業務量が増加します。
5-2.公立病院
公立病院も自分たちでしっかりと利益を出すことが求められますし、より多くの患者さんの診療にあたるためにはどのように効率化をはかればいいかなど常に考える必要があります。
が、「公立病院」というネームバリューがありますので、それほど収益が減少することは少ないでしょう。
また、独立行政法人化したあともある程度の税金が投入されますので、100%自分たちで賄わないといけない民間病院に比べれば余裕があります。
そして、その余裕が職員1人ひとりに分け隔てなく与えられているのです。
6.患者さんからの見られ方
5-1.民間病院
民間病院は地域に根差した医療に尽力していますが、「町医者の延長」という感覚で、軽い症状の高齢者がたくさん来院し、よくわがままを言われてしまいます。
そして地域住民からは「ヤブ医者」という印象を多々持たれる傾向にあります。
これは病院の特性上仕方ありません。
少しでも患者さんの意図や意向に沿わなければ「あの病院はちゃんと治してくれない」という悪評が広まります。
地域密着型の病院だと、悪評は一瞬で広まってしまい、弱い立場になってしまいます。
6-2.公立病院
一般的に公立病院は高度な医療を提供する役目を担っているため、重度な病態の患者さんが対象となり、紹介状がないと受診しにくい病院が多いです。
(地域密着型の町立・市立病院を除く)
そのため、来院される患者さんはどこか「よそ行き」のような感覚で受診するため、地元の民間病院よりは大人しい印象です。
しかし、中にはぐいぐい言われるかたもいらっしゃいます。
独立行政法人化したとはいえ、一般の患者さんはそれがどういうことかそこまで理解されていませんので、少しミスがあろうものなら「親方日の丸」や「お役所仕事」と揶揄され、クレームにつながってしまいます。
7.給与・福利厚生など待遇面
7-1.民間病院
給与ばかりはその病院によりますので、一概に「民間だから」と言えるものではありません。その額はピンからキリまで大きな幅があります。
例えば新卒採用の場合、病院によって160,000円~200,000円程度の差があります。
組織の経営状況が直で反映されますので、病院の売り上げが悪ければ給与が上がらなかったり、ボーナスが下がったりします。
また福利厚生として、自院を受診した場合、従業員やその家族の医療費が安くなるケースがあります。いわゆる「社員割引」ですね。
私のいた民間病院では、職員が自院を受診した場合、どれだけ医療費がかかろうとも一ヵ月で3,000円までの自己負担で済みました。
両親の受診も同様の扱いで3,000円以上はかからなかったため、大変助かりました。
7-2.公立病院
公立病院内でも給与には幅があり、統一されてはいません。
ただ、民間病院よりは高い傾向にあると言えます。
独立行政法人化したとはいえ、まだまだ税金で補填される分も多くあるため、経営状況が直で従業員の給料やボーナスに反映することはほとんどありません。
しかし、「社員割引」に関しては、税金が投与されていることからも、民間病院のように従業員の医療費が安くなるということはありません。
8.おわりに
以上、私の経験談から民間病院と公立病院を比較してきましたが、数多くある民間病院および公立病院のわずかなケースであり、全ての民間病院および公立病院に当てはまるわけではありません。
「民間だから」「公立だから」と一様に言えるものであなく、あくまで
「このような傾向にあると言えなくもない」
というくらいの、「ぺこぱ」的な認識でご理解いただけると幸いです。
私見としましては、民間病院より公立病院の方がはるかに働きやすいということです。