入院や手術をして医療費が高額になった場合でも、日本の健康保険制度には「高額療養費制度」という世界最強の制度が存在します。
医療費がどれだけ高額になったとしても一ヵ月の自己負担限度額は決まっており、一定額以上の医療費を支払う必要はありません。
さらには直近の1年間に何度も高額療養費制度を利用すれば、自己負担限度額がさらに下がる「多数該当」という仕組みが存在します。
この記事では、10年以上医療事務員として外来や入院の医療費の請求業務に携わり、多くの患者さんにアドバイスをしてきて筆者が、高額療費制度における多数該当についてわかりやすく説明していきます。
この記事をお読みいただくことで、高額療養費制度の多数該当の仕組みが明確になりますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
1.高額療養費制度の前知識
1-1.高額療養費制度の概要
高額療養費制度の概要に関しては以下の記事にまとめていますので、そちらからお読みいただくとよりスムーズに理解を進めることができます。
1-2.入院や外来、調剤薬局や歯科の合算
同月内に入院・外来、調剤薬局や歯科と、複数のカタチで医療機関等を受診した場合、それぞれの窓口負担金が21,000円以上であれば、高額療養費制度の対象として合算することができます。
その合算した合計金額が、患者さんそれぞれの適用区分に定められている自己負担限度額を超えれば、差額が高額療養費として支給されるということです。
詳細は以下の記事をご覧ください。
※ちなみに70歳以上の方の場合、21,000円以上のルールはないため、少額であっても合算することができます。
2.多数該当とは
ここまでの内容を踏まえていただき、ここからがようやく本記事の主旨です。
高額療養費制度の多数該当とは、直近1年間で3回、高額療養費の支給対象となった場合、4回目以降は自己負担限度額がさらに下がるというものです。
直近1年間は、単純に現在の月から数えて過去の1年間です。
年や年度は考慮する必要はありません。
今が8月8日なら、その8月を含めて遡った7.6.5.4.3.2.1.12.11.10.9月の1年間であり、起点は常に現在の月です。
また、同じ医療機関でなくても結構です。
高額になった(高額療養費に該当した)医療機関が複数に渡っていても、それぞれ1回目、2回目としてカウントすることができます。
3.多数該当の限度額
多数該当となった際の自己負担限度額は以下の通りです。
右側の赤文字が多数該当の自己負担額です。
上から、現役並みⅢ・現役並みⅡ・現役並みⅠ・一般、と記号が付与されています。
※1 厚生労働省ホームページより抜粋
※2 多数回該当と表記されていますが、多数該当と同義です。
4.多数該当の適用例
ここから例を元にみていきましょう。
以下の43歳のAさんは年収400万円で所得による限度額適用区分がウです。
Aさんは8月の医療費が高額療養費の支給対象となったため、直近1年間を振り返ったところ、9月、11月、1月にも高額療養費の支給対象となっていました。
今回の8月の医療費が直近1年間で4回目の高額療養費の支給対象となり、適用区分がウのAさんは8月分の自己負担限度額が44,400円まで下がります。
もしAさんが、8月は受診せずに9月に受診して高額療養費の支給対象となった場合、その9月から直近1年間を振り返っても2回しか高額療養費の支給対象になっていないため、多数該当にはなりません。
例のように、たった1ヶ月受診がずれるだけで自己負担が大きく変わってきてしまうため、救急ならともかく、予約なら直近1年間を踏まえて受診するようにしましょう。
一つ申し上げておきたいのは、たとえば病院側が、
「8月は手術の予定がいっぱいですので9月からしか入院できません」
として病院側の都合で月がずれ込んでしまったがために多数該当にならないというケースも考えらえます。
しかしそれは病院が「儲けたいから」ということは決してございません。
多数該当になってもならなくても、病院に入ってくるお金は一緒です。
手術室の予定が先まで埋まっていて、かつ常に緊急手術を行っているような病院では予約入院・手術が患者さんの思い通りの時期にはできない可能性がありますのでご注意ください。
5.多数該当は世帯単位で考える
多数該当は世帯単位でも適用されます。
以下のアルファ家を例に説明していきましょう。
A男を被保険者として被扶養者にB美とC太がいるアルファ家は、同一保険の世帯であるため、3人の医療費をトータルで考えていくことができます。
そのため、直近1年間に世帯の誰かが高額療養費の支給対象となっていれば1回としてカウントしていきます。
図のように、8月にA男が高額療養費の支給対象となったために直近1年間を振り返ってみると、9月にはB美が骨折、1月にはA男自身が入院、そして5月にはB美とC太が受診したことでそれぞれ高額療養費が支給されています。
この9月・1月・5月が高額療養費の支給対象となっていることから、今回のA男の8月の医療費が多数該当にあたり、医療費が安くなるのです。
以上のように、同一保険の世帯に含まれる家族は、メンバー全員で高額療養費の支給状況をカウントしていくことができるのです。
ちなみに5月のB美とC太が受診している例では、それぞれの窓口負担金が21,000円以上であることが二人の医療費を合算できる条件となっています。
「世帯」の考え方など詳しくは下記記事をご覧ください。
6.窓口での多数該当の取り扱い
6-1.医療機関が異なる場合
高額療養費の支給対象となった医療機関が異なる場合、医療機関の窓口では過去の支給状況は把握できませんので、多数該当が適用されません。
6-2.支給対象者が異なる場合
5の例のように、同一世帯の中で支給対象者が異なる場合もまた、医療機関の窓口では他の家族の支給状況は把握できませんので、多数該当が適用されません。
6-1および6-2は、役所や保険組合など加入する保険者に後ほど申請することで差額が返金されますのでご安心ください。
7.本記事のまとめ
- 高額療養費は多数該当がある
- 多数該当なら4回目から安くなる
- 直近1年間で3回支給されていること
- 多数該当は世帯単位で考えることができる
- 医療機関や支給対象者が異なれば一旦支払う
8.おわりに
以上、高額療養費制度の多数該当について説明してきました。
高額療養費制度が適用となれば、ただでさえ医療費がだいぶ安くなるにも関わらず、多数該当となればさらに自己負担限度額が下がるので本当に素晴らしい制度です。
4の項で説明している通り、少し時期がずれるだけで自己負担額が増える可能性もありますので、高額療養費制度をしっかりと理解し、賢く受診するようにしていきましょう。