医師の事務作業を補助するために配置される医師事務作業補助者には、その目的をスムーズに遂行できるよう業務内容が限定されています。
この記事では、医師事務作業補助者の業務をすみ分け、やってはいけない業務を明確にしていきます。
手始めに医師事務作業補助者の概要です。
『医師事務作業補助者は、病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に対する体制を確保する目的として、(中略)医師の事務作業を補助する専従者を配置している体制を評価するものである』
※社会保険研究所『医科点数表の解釈』より引用
ということが明記されているように、医師の業務負担を軽減することが存在目的です。
そのため、最大限その目的を達成することに注力できるよう「医師事務作業補助者がやってはいけない業務」というものも明記されているのです。
まず念頭に置いて頂きたい考え方として、医師事務作業補助者がやるべきか疑わしい業務を頼まれたときは
「それって医師の事務作業なの?」
という観点から考えてみることです。
以下に医師事務作業補助者の担当すべき業務とやってはいけない業務を明確にしていき、医師事務作業補助者の全体像から細部に至るところまでを把握していきましょう。
目次
1.医師事務作業補助者が行う業務
まずは医師事務作業補助者が行う業務とされているものを列挙し、説明していきます。
医師(歯科医師を含む)の指示の下に
- 診断書などの文書作成補助
- 診療記録(カルテなど)への代行入力
- 医療の質の向上に資する事務作業(診療に関するデータ整理、院内がん登録等の統計・調査、医師等の教育や研修・カンファレンスのための準備作業等)
- 入院時の案内等の病棟における患者対応業務及び行政上の業務(救急医療情報システムへの入力、感染症サーベイランス事業に係る入力等)
これらの対応に限定するとあります。
国家資格ではないにも関わらず、ここまで明確に業務内容の範囲を定めている職種もなかなか珍しいものです。
それでは各業務内容を一つずつみていきましょう。
1-1.診断書などの文書作成補助
こちらが医師事務作業補助者の業務の中でも最もポピュラーなものとなります。
医師は手術など入院治療を行うと、患者さんが加入している医療保険などの診断書の記載依頼を受けるのですが、これがたくさんあって大変なのです。
私が以前に勤めていた病院では、医師事務作業補助者の業務時間のほどんどが診断書作成に費やされていました。
しかし、量は多いですがカルテを読んで必要な箇所を記載していくだけなので、慣れてくれば1枚の診断書作成にかかる時間も10分程度で記載することも可能でしょう。
1-2.診療記録(カルテなど)への代行入力
医師が患者さんの診察をしている側で、カルテを代わりに記載します。
この場合、紙のカルテではなく主にパソコンで管理されている電子カルテに入力していくこととなります。
例えば高齢の医師である場合、パソコンのキーボード打ちが極端に遅い方もたくさんいらっしゃいますが、病院が電子カルテを導入した以上、自分1人だけ紙のカルテに書くなんてわけにはいきません。
そのような医師のカルテ入力のサポートを行うのです。
医師の話している内容をそのまま入力するだけでいいですし、電子カルテには「定型文」もたくさん用意されているので、それらを選択するだけもよいところもあるでしょう。
患者さんと関わりたい方にはおすすめのポジションです。
1-3.医療の質の向上に資する事務作業(診療に関するデータ整理、院内がん登録等の統計・調査、医師等の教育や研修・カンファレンスのための準備作業等)
こちらは少々ややこしいため、一つずつ分けて説明していきます。
1-3-1.診療に関するデータ整理
日常の診療のデータを、必要な時にいつでも医師や医療スタッフ、もしくは患者さんに提供するためにまとめて整理しておきます。
ただ単に患者さんの診療を行っているだけではデータが散らかってしまいますので、欲しいときにほしいものがすぐに取り出せるよう、日々のデータ整理が重要となりますので、医師事務作業補助者の活躍が期待されます。
1-3-2.院内がん登録等の統計・調査
日本の医療の発展のため、がんや難病などの症例を関係各所に報告が必要なケースがあります。
主にがん登録に関していえば、求められたフォーマット(様式)に従い、記載や入力をして届出をするのです。
ですが、がん登録は診断書作成のような比較的転記がメインとなる業務ではなく、がん登録専門の知識が必要になってきます。
大半の病院で医師ががん登録を行っている例は少なく、診療情報管理士の業務として扱っている病院が多いです。
もしがん登録が医師事務作業補助者の業務として割り振られたとしても、国立がん研究センターなどが主催する勉強会や試験が多数ありますので、学習する機会には困りません。
そちらをクリアして
「がん登録実務初級者」
を目指しても良いでしょう。
1-3-3.医師等の教育や研修
上級の医師には後輩や研修医の先生を教育する役目も担っています。
下の先生達に対して座学を展開することもあるでしょうから、教材や資料の準備が必要となりますので、それらの準備を医師事務作業補助者が代わりに行うということです。
1-3-4.カンファレンスのための準備作業
カンファレンスとは、主に患者さんの治療方針について医師・看護師やその他職種の人たちで話し合う場のことです。
事前に資料を準備したり、患者さんの情報をまとめたりする必要がありますので、そういった作業を医師の代わりに行うのです。
1-4.入院時の案内等の病棟における患者対応業務及び行政上の業務(救急医療情報システムへの入力、感染症サーベイランス事業に係る入力等)
1-4-1.入院時の案内等の病棟における患者対応業務
この項目は令和2年度の診療報酬改定で追加された文言です。
ナースステーションなど病棟で医師事務作業補助業務を行っていると、患者さんから声をかけられることもあるでしょう。
看護師さんも手いっぱいで、対応できるのが医師事務作業補助者の方しかいないという状況では対応せざるを得ません。
そんな現場の声を反映させ、改定で盛り込んだのではという経緯が想像できます。
1-4-2.救急医療情報システム
救急車で搬送された患者さんの状況や症状を専用のコンピュータ端末で入力する業務です。
深い医学知識が求められる業務ではありませんので、医師ではなく医事課の職員が行っている傾向にあります。
そのため、医師事務作業補助者が救急医療情報システムの入力を行うことは少ないと考えます。
1-4-3.感染症サーベイランス事業
感染症の制御や予防対策に用いることを目的として感染症を分析するためそれぞれの病院で確認した感染症患者の情報を国などに届け出る業務を指します。
このブログ記載時点ではコロナウイルスが猛威を振るっています。
新規に発生した患者の国(保健所等)に対する報告も病院としての責務ですので、そういった報告書などの作成から報告までを医師事務作業補助者が担当することもあるでしょう。
2.医師事務作業補助者がやってはいけない業務
次は反対に、医師事務作業補助者がやってはいけない業務を説明していきます。
- 医師以外の職種の指示の下に行う業務
- 診療報酬の請求業務(DPCコーディングに係る入力等)
- 窓口・受付業務
- 医療機関の経営・運営のためのデータ収集業務
- 看護業務の補助並びに物販運搬業務等
これらの項目も一言一句違うことなく『医科点数表の解釈』に書いており、医師事務作業補助者の禁止業務を明確に規定しています。
一つずつみていきましょう。
2-1.医師以外の職種の指示の下に行う業務
病院には医師以外に看護師や薬剤師、栄養士、事務職員など、たくさんの職種の人達がいます。
しかし医師事務作業補助者はこれらの職種からの指示は受ける必要がありません。
例えば、良きにしろ悪しきにしろ「病院のなんでも屋」と評される医事課であれば、他部署から業務をお願いされて断れずに引き受けてしまい、医事課職員の首がどんどん締まる、と言ったことが往々にしてあります。
しかし、医師事務作業補助者にはこれがありません。あくまで「医師」の事務作業だけをサポートするのです。
このルールが破られてしまえば「医師事務作業補助体制加算」の要件を満たさないことになりますので、不正な算定となり、病院は国にお金を返還(返金)させられる可能性があります。
最悪なケースでは、意図的かつ悪質だと判断されれば保険医療機関としての指定を取り消されることにもなりかねないでしょう。
この条件だけでも、医師事務作業補助者がかなり守られた存在であるということがわかりますね。
2-2.診療報酬の請求業務(DPCコーディングに係る入力等)
診療報酬の請求業務やDPCコーディングは上述の「医事課」が主に担当する業務です。
いわゆる「レセプト業務」といわれるものです。
簡単に言えば、外来や入院で行われた医療行為を医療費として計算し、患者さんから1~3割の費用を請求後、社会保険支払基金や国保連合会などの「保険者」に残りの9~7割の費用を請求する業務です。
つまり、これらはれっきとした医事課職員の業務であり、「医師の事務作業」ではないため、医師事務作業補助者が担当することはないのです。
2-3.窓口・受付業務
窓口・受付業務は、患者さんの診察受付を窓口にて行う業務であり、診療報酬の請求業務と同様、医事課職員の業務です。
医師が窓口や受付業務を行うわけありませんよね。
2-4.医療機関の経営・運営のためのデータ収集業務
これらは主に「診療情報管理士」の業務となります。
疾病の統計から病院経営に関わる収益など様々な統計業務を行うのが診療情報管理士であり、医師事務作業補助者とは異なります。
医師が直接病院経営に関わることはありません。
ですが、病院長は別です。
もしやる気に満ち溢れた病院長の秘書的なポジションの医師事務作業補助者の方がいた場合、院長先生から経営に関わるデータを出すよう言われる可能性もあります。
そういった場合は「統計などの専門家である診療情報管理士に依頼しますね」と言って、診療情報管理室に投げるようにしてください。
2-5.看護業務の補助並びに物販運搬業務等
これは一つめの「医師以外の職種の指示の下に行う業務」と重複するような内容ですが、これらは「看護助手」の方の業務です。
「看護助手」は資格が必要ではなく、看護師の補助をするために雇用されている方々です。
「クラーク」や「エイド」という呼び方もしますが、この方々もまた医師事務作業補助者とは明確に異なります。
医師事務作業補助者は看護師の業務を補助したり物を運ぶこともしなくて結構です。
3.まとめ
以上が医師事務作業補助者がやってはいけない業務の解説でした。
ブログ内でも何度か書いてある通り、
「これって医師の事務作業なの?」
という観点を判断基準に置くと、医師事務作業補助者の担当すべき業務は何かということが見えてきますね。
本記事に書いてあることを踏まえて、本当に医師のためだけに活躍する医師事務作業補助者を目指していきましょう。