入院や手術をして医療費が高額になった場合でも、日本の健康保険制度には「高額療養費制度」という世界最強の制度が存在します。
その対象は入院だけでなく、外来はおろか調剤薬局の医療費も高額療養費制度の支給対象となります。
そして調剤薬局の窓口負担金は、処方せんを交付された医療機関の窓口負担金と合計して「21,000円以上になるか?」といった計算をすることができます。
この記事では、10年以上医療事務員として外来や入院の医療費の請求業務に携わり、多くの患者さんにアドバイスをしてきて筆者が、高額療費制度における調剤薬局の扱いについてわかりやすく説明していきます。
この記事をお読みいただくことで、高額療養費制度についての調剤薬局の取り扱いが明確になりますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
1.高額療養費制度の前知識
1-1.高額療養費制度の基本
高額療養費制度の基本に関しては以下の記事にまとめていますので、そちらからお読みいただくとよりスムーズに理解を進めることができます。
1-2.入院や外来、調剤薬局や歯科の合算
同月内に入院・外来、調剤薬局や歯科と、複数のカタチで医療機関等を受診した場合、それぞれの窓口負担金が21,000円以上であれば、高額療養費制度の対象として合算することができます。
その合算した合計金額が、患者さんそれぞれの適用区分に定められている自己負担限度額を超えれば、差額が高額療養費として支給されるということです。
詳細は以下の記事をご覧ください。
※ちなみに70歳以上の方の場合、21,000円以上のルールはないため、少額であっても合算することができます。
2.調剤薬局とは
そもそも調剤薬局というのは、診療所や病院などの医師が患者さんを診察した上で交付される処方せんを元に薬剤師が調剤し、患者さんに薬を受け渡す薬局のことです。
最近では一般的なドラッグストアにも薬剤師の方が勤務し、処方せんを取り扱ってくれるところが増えてきました。
病院の長い待ち時間を耐えてようやく診察を受け終わったのに、薬を受け取るにもまた長い待ち時間が発生することは多くの病院の課題でもあります。
そんな薬の待ち時間も、町の調剤薬局やドラッグストアに処方せんを持って行けば、比較的短い待ち時間で薬を受け取ることができるのです。
補足ですが、医療機関側が患者さんに「〇〇薬局に行って薬をもらってください」といったように調剤薬局を誘導することは法律で禁止されています。
それが許されてしまうと、キックバックやリベートが横行し、ワイロにつながりかねません。
調剤薬局を誘導するような医療機関があれば、疑ってかかりましょう。
(特定の保険薬局への誘導の禁止)
第二条の五 保険医療機関は、当該保険医療機関において健康保険の診療に従事している保険医の行う処方箋の交付に関し、患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等を行つてはならない。
○保険医療機関及び保険医療養担当規則 第二条の五より抜粋
3.調剤薬局は医療機関と合計できる
高額療養費制度において調剤薬局の取り扱いはどのようになっているのでしょうか?
上記1-2の図にもありますように、調剤薬局の窓口負担金は、処方せんを交付した医療機関の窓口負担金と合計することができます。
調剤薬局の窓口負担金と処方せんを交付した医療機関の窓口負担金を合計して21,000円以上であれば、高額療養費制度の合算対象にすることができます。
調剤薬局単独で21,000円以上を叩き出す必要はないのです。
「院外処方では高額療養費の計算対象にできないので、無理やり病院で院内処方してもらっている」
と勘違いしている方も多くいらっしゃいますが、このように調剤薬局の窓口負担金を院外処方せんを交付してくれた病院の窓口負担金と合計することができるのです。
4.別の医療機関の処方せんは合計できない
では複数の医療機関を受診して院外処方せんが交付され、同一の調剤薬局で薬を受け取った場合、それぞれの窓口負担金を足して考えることができるのでしょうか?
通常通り院外処方せんを交付した医療機関と調剤薬局の窓口負担金を合計することはできますが、それら全てを足すことはできません。
どういうことか、下の図をご覧いただくとわかりやすくなっています。
図のように、Bさんが同月内にA病院とB病院をそれぞれ受診し、院外処方せんを交付してもらい、同一の調剤薬局で薬を受け取った場合、
- A病院とC調剤薬局の窓口負担金を合計する(AC会計)
- B病院とC調剤薬局の窓口負担金を合計する(BC会計)
AC会計とBC会計を足して考えることはできないのです。
「AC会計では14,000円でBC会計では9,000円なので合わせて23,000円となり、高額療養費制度の支給対象にすることができる」
という計算はできません。
あくまで、院外処方せんを交付した医療機関と調剤薬局だけの関係で窓口負担金を考えていくこととなります。
4-補足.レセプト単位という考え方
以上のように、調剤薬局の場合はたとえ一ヶ月の窓口負担金が21,000円以上だったとしても、元が複数の医療機関からの処方せんなら窓口負担金は合計できないのです。
それは高額療養制度が「レセプト単位」という考え方だからです。
※このあたりは一般の方は飛ばしてもらっても結構です。
そのため、調剤薬局の窓口負担金は、院外処方せんが交付された医療機関がどこか、また重複してないか、といった精査が必要になります。
5.本記事のまとめ
- 高額療養費制度では調剤薬局も対象となる
- 処方せんを交付した医療機関と合計できる
- 複数の医療機関の処方せんは足すことができない
- 調剤薬局では21,000円を越えても精査が必要である
- 高額療養費制度は「レセプト単位」で支給されるから
6.おわりに
以上、高額療養費制度における調剤薬局の扱いについて説明してきました。
少し計算の手間がありますが、調剤薬局はこれからますます増えることが予想され、患者さんの生活が便利になることには変わりありません。
受診した病院内でそのまま薬を受け取ることができる院内処方とうまく使い分け、ご自身のメリットを考えて選択を心がけてみてください。
患者さんである皆さんが損をしないよう、医療費に関する情報を本ブログでしっかり発信していきますので、ぜひとも定期的にアクセスしてみてください。